学校におけるアドボケイト
子どもの権利条約第12条(こどもには、自分に影響のあることについて自由に思いや願いをあらわす権利があり、こどもあらわした思いや願いはそのこどもにふさわしく重く受け止められなくてはならない。「being given due weight in accordance with the age and maturity of the child」)に基づき、学校においてこどもが思いや願いをあらわし、思いや願いが重く受け止められることを支援するために独立アドボケイトが活動する場合、検討すべき事項は、単なる「配置」や「制度導入」ではなく、権利保障として機能するかという観点から整理する必要がある。主な検討点は以下のとおり。
1 位置づけの明確化(12条のどの側面を担うのか)
子どもの権利条約12条は
①思いや願いを自由にあらわす権利
② あらわした思いや願いが「そのこどもにふさわしく重く受け止められる」権利
の二段階構造をもつ。
これに応じて、独立アドボケイトの役割はふたつ
- こどもが安心して思いや願いをあらわす過程の支援
- それが学校の意思決定過程に届くための媒介
👉 「聴くだけ」で終わらせない設計かが核心。
2 独立性の確保(学校からの独立)
アドボケイトが12条の担い手となるためには、独立性が不可欠。
- 学校(校長・教職員)の指揮命令系統に属さない
- 人事・評価・報酬が学校に左右されない
- 苦情・紛争場面でも学校側の利益を代弁しない
👉 「外部人材」でも、学校との契約や法的事実的立場によっては独立性が損なわれる。
3 守秘と情報の取扱い(信頼関係の前提)
こどもが安心して話すためには、
- 原則として守秘義務があること
- 例外(重大な危険がある場合等)を事前に説明
- 学校・保護者への共有範囲と手続の明確化
が必要。
👉 守秘が曖昧なアドボケイトは、こどもの沈黙を生む。
4 「代弁」ではないこと
12条は「大人が代わりに言う権利」ではない。
検討すべき点:
- こどもの言葉・表現を大人の都合で整形していないか
- 意見が揺れている段階でも表明を支援できるか
- 「本当はどうしたいか」を問い出す力があるか
👉 アドボケイトの役割は「通訳」ではなく、主体性の伴走支援。
5 学校の意思決定プロセスとの接続
こどもの思いや願いが「あらわされた」後、学校の意思決定とどうつなぐか?
- どの会議・判断に届けられるのか
- どう考慮されたかをこどもにフィードバックする仕組みがあるか
- 受け止められなかった場合の理由説明があるか
👉 フィードバックなき参加は、形式的参加に転落する。
6 年齢・発達・障害への配慮
12条は「年齢及び成熟度に応じて」。
検討点:
- 言語化が難しいこどもへの代替的コミュニケーション
- 障害のあるこどもへの合理的配慮
- 小学生・中学生・高校生での支援方法の差異
👉 「話せる子」だけが対象にならない設計が必要。
7 保護者・教職員との関係整理
独立アドボケイトは、
- 保護者の代理人ではない
- 教職員の調整役ではない
という立場を明確にする必要がある。
特に:
- 保護者の意向とこどもの思いが衝突した場合
- 学校秩序・指導と意見表明が緊張関係にある場合
👉 こどものアドボカシーであることを制度として明示する。
8 記録と説明責任(権利保障としての可視化)
- どのように意見を聴いたか
- どう考慮したか
- なぜその結論になったか
を記録し、検証可能にすることが重要。
👉 これはこども計画・学校運営の説明責任とも接続する。
9 制度化の単位(学校単位か、自治体単位か)
検討すべき制度設計:
- 学校ごとの設置 → 独立性リスク
- 自治体プール制 → 継続性・専門性確保
- 第三者機関型 → 苦情救済との接続
👉 自治体の責務(こども基本法・条例)として位置づける視点が重要。
10 条例・要綱のモデル
(目的)
第◯条
この制度は、子どもの権利条約第12条の趣旨に基づき、学校においてこどもが自らの思いや願いを安心して表明し、その意見が年齢及び発達に応じて適切に考慮されることを保障するため、独立した立場からこどもを支援することを目的とする。
(独立アドボケイトの設置)
第◯条
自治体は、学校に在籍するこどもが思いや願いを表明する権利を実質的に行使できるよう、学校から独立した立場にある独立アドボケイトを配置し、又は派遣するものとする。
(独立性)
第◯条
独立アドボケイトは、校長その他の学校関係者の指揮命令を受けず、その職務の遂行に当たり、こどもの利益及び意思を最優先とする。
(職務)
第◯条
独立アドボケイトは、次に掲げる職務を行う。
一 こどもが思いや願いを表明するに当たっての相談及び意思形成の支援
二 こどもの同意に基づき、当該意見を学校の意思決定過程に伝達すること
三 当該意見がどのように考慮されたかについて、こどもに説明すること
四 その他、意見表明権の保障に必要な支援
(守秘義務)
第◯条
独立アドボケイトは、職務上知り得たこどもの秘密を漏らしてはならない。ただし、生命又は身体に重大な危険が及ぶおそれがある場合その他正当な理由がある場合は、この限りでない。
(評価と見直し)
第◯条
自治体は、本制度の運用状況について定期的に検証を行い、こどもの権利保障の観点から必要な見直しを行うものとする。
11 学校向け運用指針(Do / Don’t)
Do(必ず行うこと)
- 独立アドボケイトを「学校の補助者」ではなく、別の立場の存在として扱う**
- 面談・相談の機会を、成績・問題行動と結びつけない
- 意見を受け取った後、
- どこで
- どのように
- どう考慮したか
を説明できる形で整理する
- 採用されなかった場合も、理由をこどもに返す
Don’t(してはいけないこと)
- 教職員が同席することを原則にする
- 意見表明を「トラブルの芽」として扱う
- アドボケイトに調整役・説得役を期待する
教職員向け説明文(そのまま配布可)
独立アドボケイトは、
こどもを「守る人」でも「学校を助ける人」でもありません。こどもが、学校の中で
「こう思っている」「こうしてほしい」
と感じていることを、安心して言葉にし、
それが学校の判断の中でどう扱われたのかを知るための支援者です。独立アドボケイトは
子どもの思いや願いをがそのまま通ることをめざす者ではなく、
「どう考えたか」「なぜそう判断したか」を
こどもに説明できる学校であることを確保する存在です。
保護者向け説明文(そのまま配布可)
この制度は、
学校でこどもが言いにくい思いや願いを、
安心して話せるための仕組みです。独立アドボケイトは、
保護者の代わりに主張する人ではなく、
こども自身が自分の考えを整理し、伝えることを支援します。こどもが自分の思いを大切にされる経験は、
将来、他者の意見を尊重する力にもつながります。
評価・検証フレーム(自治体・第三者評価用)
アドボカシー制度の運用状況を、次の問いで評価し検証する
1 アクセス
- こどもは存在と利用方法を知っているか
- 年齢・障害等で排除されていないか
2 プロセス
- 安心して話せる環境があるか
- 意思形成の支援が行われているか
3 反映
- 意見は、実際の判断過程に接続されたか
- どの段階で考慮されたか記録があるか
4 フィードバック
- 結果と理由が、こどもに返されているか
5 主観的評価
- こども自身が
「言ってよかった」
「次も話してみよう」
と感じているか